このページの本文へ移動

品質管理(前編) (製品・サービスの質の一定化)

メルマガ再録 (2008年3月10日) 第61号


品質管理の定義と、私がかかわってきた製造会社の生産管理の品質の取組みについて工程を追って説明しています。

         < 品 質 管 理 (前編) >

1.はじめに

 私のメルマガ41号から50号までのヒストリーを読まれた方はよくご
存知でしょうが、私は若い頃モーターを作る製造会社の品質管理の仕事を
していたことがあります。
 それから転職して、美容室のコンサルティングを始めた頃、業界が違う
とこんなにも感性が違うのかと、大変違和感を感じました。
 それは、技術という言葉はよく使うのですが、「品質管理」という言葉
を誰も使わないからです。
 なぜだろうと思いました。
 美容室は品物を扱うのではなく、サービス業であり、サービスの質とは
言いますが、品質管理という言葉はふさわしくないということで使わない
というように解釈しました。
 でも、品質という言葉は製造業だけのものでしょうか? サービス業に
も不可欠なものですよね。
 ということで、今回はサービス業における品質について考えてみます。
 その前に、世間で言う品質、私がかかわってきた品質管理について一度
見直してみるところからスタートしましょう。

2.ISOのいう品質とは?

 まず、ISO(インターナショナル・・オーガナイゼーション・フォー・
スタンダーダイゼーション、国際標準化機構)が言う品質について調べま
した。
<ここから>
 ISOの云う品質とは、製造業であれば、製品の質、サービス業であれ
ば、サービスの質の事を言います。製造業であれ、サービス業であれ、イ
ンプットからアウトプットまで業務にプロセスがあり、その業務の過程を
しっかりして頂く事で、質の良い製品及び質の良いサービスが提供できま
す。ISOのいう品質保証とは、なにかの「モノ」そのものを保証すると
いう事ではなく、組織の業務品質という行為を保証するという事にあたり
ます。そのために必要なマネジメントシステムを構築して実施しましょう
という事です。
 ISO9001は品質の規格ではなく、品質マネジメントシステムの規
格という事に注意して下さい。言い換えれば、「モノ」についての規格で
はなく「仕組み」についての規格と言う事です。

3.ソフトウェアの品質の定義

 サービスに関するISOの規定を調べてみましたが、きっちりそれに該
当するものが見当たりませんでした。
 それで、考え方としては近いと思われる「ソフトウェア」の品質につい
ての解釈があったので掲載します。
<ここから>
 品質モデルは「ISO 9126-1」で規定されており、ソフトウェ
ア品質を次のように構造的に定義した。
 なお、日本ではその翻訳版が日本工業規格で「JIS X 0129-
1」となっている。
[機能性(functionality)]
 機能とその特性に影響する特性群。機能には、必要性が明確に述べられ
 ているものと、暗に示されているものがある。
   合目的性、正確性、相互運用性、標準適合性、セキュリティ
[信頼性(reliability)]
 ある状況がある時間続いたときにソフトウェアがどの程度機能するかに
 影響する特性群。
   成熟性、回復性、障害許容性
[使用性(usability)]
 利用するのにかかる手間、個人の努力などに影響する特性群。
   習得性、理解性、運用性
[効率性(efficiency)]
 ソフトウェアの性能やそれに要するリソース量に影響する特性群。
   時間効率性、資源効率性
[保守性(maintainability)]
 何らかの変更を加えるのにかかる手間に影響する特性群。
   安定性、解析性、変更性、試験性
[移植性(portability)]
 別の環境にソフトウェアを移行させる可能性に影響する特性群。
   設置性、置換性、環境適応性
<ここまで>
 こういう項目のリストは大変参考になりますね。これらをベンチマーク
してサービス業に置き換えて考えてみるとより深いものが出来そうですね。

4.製品の生産工程と品質について

 では、私がかかわってきた生産管理の品質について工程を追って説明し
ましょう。
 私は松下電器のモーターの部品を造る下請け会社にいて、昭和50年頃
から4年間ほど品質管理係を担当しました。
 その時のことをベースに書いてみます。
 美容師の皆さんにとってはなかなか面白い話かもしれませんよ。

(1)「設計の品質」
 設計は製品の全ての、そして品質の根源です。設計が悪ければ良い製品
が出来ません。
 そこには多くのノウハウが伝統的にあります。初級の設計者はそのノウ
ハウを吸収、引き継いでいくことが品質をキープするポイントです。

(2)「量産化の品質」
 設計が良くてもそれを量産化する図面に間違いがあれば、たちまち不良
品の山です。
 この量産化技術というものは見落としがちです。
 一つを作ることと1000を作ることでは全く意味が違ってきます。
 ここではいかに品質を保ちつつ、効率よく生産できるかを試作して、そ
の要素を図面化します。それが「仕様書」といわれるものです。これが量
産品質の要となり、この通り生産できれば100%良品となります。この
仕様書は、部品調達の購買と生産現場に渡されます。

(3)「購買の品質」
 購買は、量産の個数分部品を発注しますが、似たような部品ナンバーが
多く、部品コードを間違えて発注するケースが多くあるので注意が必要で
す。また数量も一つでも足りないと製品は完成しないだけでなくラインが
ストップしてしまうということで大損害を出してしまうことになるので、
大変重要なポジションです。

(4)「受入の品質」
 購買は、その仕様書に基づき、材料の購入手配をしますが、ここに一つ
の問題が隠れています。
 入荷した商品が本当に仕様基準を満たしているかということです。
 部品一つ一つがきっちり公差(仕様書で決められた誤差)内に入ってい
て初めて合格ということです。ちょっとくらいいいだろうと考えていると、
その少しの誤差が積もって、最終的には合わなくなるということが良くあ
ることです。
 なので、仕入部品の受け入れ検査は欠かせないものがあります。
 大量の部品の場合は抜き取り検査をします。これにはまた基準があって、
何個の数の時には何個抜き取りすれば目的とする品質を確保できるかとい
う計算方法が決められています。これはAQL(アクセプタブル・クオリ
ティレベル)といわれる抜取検査基準で、日本では検収(けんしゅう、検
査して収める)基準とされることも多くあります。
 製品の性質上、不良が安全性に深刻な影響を与える場合は、100%良
品であることが求められるため全数検査ということもあります。

(5)「作業工程の品質」
 仕様書と部品が準備出来れば、生産現場はいかに品質を維持しながら、
効率よく生産をするかということになります。
 順調に行くことが前提ですが、しかしそこには理論と現実の空白部分、
つまり不良の落とし穴が待っているのです。
 例えば、複数の線の束を一定のスペースに押し込めようとした場合、理
論では楽勝ではまったりしますが、実際は線がクロスしたりして、理論通
りには行かないものです。
 そうすると、設計通りに作業しようとすれば無理が生じます。これが不
良の1つの根源です。
 また、機械を使用する場合は、機械側の故障もあります。機械は絶対と
言うことはありません。これが2つ目の根源です。
 もう一つ、作業者の不注意があります。これが3つ目の根源です。
 機械の場合、初めは調子が良くても微妙な誤差が累積するうちに、だん
だんズレが生じてきて、品質規格の限度を超えることがあります。
 機械の誤差は、それを監視するのには人間の目では見えないので機械に
センサーを取り付けたり、抜き取りサンプルデータを採ったりしてグラフ
管理したりします。そうやって、不良発生を未然に防ぎます。

(6)「作業指示の品質」
 仕様書に従って仕事をしますが、現場ではいろいろな工夫がされます。
 作業の割り振りや、品質上、気をつけるポイント、以前クレームになっ
た箇所などを書き込んだ「作業指示書」を作成します。
 これによって、現場はその工夫とノウハウを継続的に使用することが出
来ます。
 但し、注意すべきはその「作業指示書」のバージョン管理です。古いバ
ージョンで作業すれば当然不良となります。
 だから、「設計図面(仕様書)」と「作業指示書」のバージョンを常に現
状一致しておかなければなりません。
 「設計図面(仕様書)」の一部修正は頻繁にあることです。そのたびに「
作業指示書」も書き換えるということを怠れば、大変なミスにつながるの
で特に注意が必要なポイントです。

(7)「工程間の品質」
 生産作業をしていると必ず不具合品が発生します。それを出来るだけ出
さないようにと思って改善活動を行なうのですが、それでもなかなか減り
ません。これは、設計の不備なのか、生産工程上の問題なのか、作業者の
不注意、または不慣れなのかを見極めて、不良を発生させている源流で不
良品発生をくい止めるということに力を入れます。
 ここで不思議なことがあります。前後の工程の仲が悪ければ不良は増え、
仲が良ければ不良は減ります。
 これは、ちょっとした気遣いをすることによって次の工程に良い結果が
もたらされるということです。
 また、後の工程から前の工程にこうして欲しいという要望も簡単に受け
入れられる素地が出来ていれば、品質は向上するのです。
 その会社の製品が部品レベルだとすれば、この製品が何の機械に取り付
けられるのかということを認識することも大切です。
 私の会社が作っていたのはエアコンやコピーなどに使用するモーターだ
ったのですが、私は会社に入ってから7~8年してからそれを知りました。
 それをしってからはやっぱり意識が変わりましたね、

(8)「作業者の品質」
 見落としがちなのが作業者の品質です。
 作業者の技術訓練はもちろんですが、自分たちはこの会社の従業員なの
だというプライドを持つことですね。
 その前に、会社自体が社是社訓を明示して、しっかりした技術と品質を
実践しているという証明が必要ですがね。
 対外の方が来られたら「きっちり挨拶する」「言葉遣いをきっちりする」
「名札はしっかり付ける」「正しい姿勢で仕事する」など、日頃の態度が
品質にも現れるので、躾(しつけ)教育は絶対必要です。
 技術の品質として、例えば半田付け技術があります。これなどは会社で
半田技術講習会や、免許制度を実施して技術習得や向上に力を入れます。
 そうすることにより、意識も向上し品質も確保されます。

(9)「工程最終チェック」
 工程品質が100%という保証があれば検査は不要ですが、組み立て製
品の場合は、品質が一定でないので最終チェックは当然必要です。
 本当にやってみるとわかりますが、不良品を見つけるということは大変
難しい仕事なんです。
 チェック項目は多岐にわたります。ベテランチェックマンになると、こ
の製品はこのあたりに良く不良が発生するということを覚えているので、
まあまあなんとかやりこなせます。
 しかし、初心者チェックマンは大変です。次々コンベアーに流れてくる
製品の全てのチェック項目を見ることは、至難の技で、もれが発生します。
 それならどうするか?・・・源流管理を完璧にすれば、この最終チェッ
クも検査員も不要な存在となり、経営効率はグンと向上するのです。

(10)「不具合品の管理」
 不良品はラインから外されます。この場合、修理が利くものは工程外で
修理してラインに戻すか、特別なルートで検査に持ち込みます。
 そこで、現場は不良データに記録することはもちろんのこと、それをリ
カバリーした方法・工夫を「作業指示書」に書き残します。これは再発防
止・良品の再現性を持たせるために絶対に必要なデータです。
 品質会議などでこのデータを元に対策会議を開き、源流対策を行ないま
す。
 そういう風にきっちりしたフィードバック出来る品質の組織を作ること
が品質の向上につながります。

(11)「検査の品質」
 検査は合否を判定する最後の砦です。
 本来、検査工程は価値を生みません。しかし、製品としての価値を保証
するという意味では欠かせない工程となります。ということで、最小の手
間で最大の品質を保証するという狙いが必要です。
 ここでも、「不具合品の管理」ということが大切です。ここまで出来た
不良製品を良品と混同しないように別管理し、データをつけることをきっ
ちりしなくてはなりません。
 これも品質改善会議の元データとして貴重なものになります。

(12)「計測器の校正」
 検査器は正しいと思い込んではいけません。
 検査器も狂うことがあるのですから、定期的にメーカーに出して検査器
を検査してもらわないといけないのです。
 これについても、記録は必要です。
 このことを「検査器を校正する」と言います。これは親会社と連携して
行ないますが、この証明期間が切れないように管理しなければなりません。

(13)「出荷の品質」
 出荷時のポイントは、荷姿と出荷伝票です。
 荷姿が悪ければ荷崩れを起こし、折角造った製品がトラックから落下し
てしまい台無しです。
 出荷の伝票も間違わないようにしなければなりません。この伝票が確認・
検収されて、売上につながるので大切なものです。

(14)「ロットナンバーとクレーム管理」
 生産ロットナンバーは、その会社が作ったという証明です。
 そのロットナンバーは会社で管理しなければなりません。これをエビデ
ンス(製造記録・証拠)といいます。
 もう一つ大切な言葉として、トレーサビリティ(追跡性)というものが
あります。
 クレームが発生した場合、(市販されたその商品に不具合が生じた場合)、
その製品・部品を生産した会社がどこなのかを突き止めるのに、そのロッ
トナンバーが確認されます。要するに源流をたどるキーになるわけです。
 ということで、その会社の中でいつ作られ、誰が作業したかまで分かる
ことになってきます。製造担当は、個人にまで至ってきます。
 そうなった場合は、クレーム内容をしっかり分析して、再発しない対策
をしっかり考えて、納品先に提出します。
 生半可な対策では了承してもらえないので、本当に源流での対策が求め
られるので、設計の見直し、生産現場を徹底的に改善し、その改善された
やりかたで作業標準書を書き直し、全員の前でそのやり方を徹底します。
 
(15)「アフターの品質」
 部品製造会社においてはアフター品質を気にすることは少ないですが、
例えば、親会社の工程の品質担当者と仲良くなって、当社の製品の品質状
況を聞くということをすれば、積極的でいいですよね。

5.最後に

 あれれ?
 本題に入る前に、誌面を使い切ってしまいましたわ。
 大きな計算違いですわ。まいったなぁ!
 ということで、美容室の品質管理については次回チャレンジします。

 では、また次回お会いしましょう!

comments powered by Disqus

▲このページの先頭へ戻る